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所得税法は、所得をその源泉ないし性質に応じて10種類に分類しています(所得税法(以下「所法」といいます。)21条1号、23~35条)。
「事業所得」はそのうちの一つです。
事業所得の金額は、売上などの収入金額から必要経費を差し引いた残りの額が基本となります。
この事業所得の「所得金額の求め方」は原則的に日本人でも外国人でも同じです。
ただし、所得税法上の「居住者」か「非居住者」か、事業が行われた場所が日本か外国かによって、実際に日本で課税される事業所得の「範囲」が異なってきます。
非居住者は国外で生じた所得(国外源泉所得)については日本で所得税を課税されません。
非国外源泉所得のうち一定の所得だけが日本で課税対象になります。
事業所得の場合、日本国内の事業所等を通じて行った事業に関係する所得だけが課税されます。
したがって、国内に事業所がなければ課税される事業所得はありません。
普通の居住者(永住者)の場合、どこで事業を行ったかにかかわらず事業所得の全額(全世界所得)が所得税の課税範囲に含まれます。
一方、居住者のうち日本国籍を有しておらず、かつ、過去10年以内において国内に住所または居所を有していた期間の合計が5年以下である個人は「非永住者」という独自の取り扱いを受けます(所法2条4号)。
具体的には課税範囲が次の3つに限定されます。
非国外源泉所得は支払場所、送金の有無にかかわりなくすべてが発生した年に課税(即時課税)されるのに対し、国外源泉所得は日本で支払を受けるか、日本に送金されるまで課税を猶予されます(送金課税。詳しくはブログ「非永住者の送金課税」をご覧ください。)。
そのため、非永住者の課税範囲を確定するために国外源泉所得と非国外源泉所得の区別が必要になります。
また、永住者にとっても、外国税額控除の限度額計算のために国外源泉所得と非国外源泉所得の区別が必要になります。
事業所得のうち国外源泉所得となるのは「国外事業所等を通じて行う事業の所得」(国外事業所等帰属所得)です(所法95条4項1号)。
それ以外の事業所得は「非国外源泉所得」に包摂されます。
複数の国で事業を行っている個人事業者にとって、とりわけ非永住者にとっては各事業所等の事業所得が「国外の事業所等に通じて」行ったといえるかどうかで日本での課税範囲が変わってきますから、この判定はとても重要です。
国外事業所等帰属所得の計算は、特別の定めが置かれている場合を除き、事業所得計算の通則に従い(所法221条の3第1項、2項)、国ごとに計算する(所得税基本通達(以下「所基通」といいます。95-6)ことになっています。
国外事業所等の事業を国内事業所等とは独立した事業として取り扱う旨の規定があります。
具体的には、国外事業所等が独立企業だったならば、それが個人事業者の事業のために果たしている役割や責任の程度を考慮して所得を計算することが要求されます。
(所法95条4項1号)
居住者が国外事業所等(国外にある恒久的施設に相当するものその他の政令で定めるものをいう。以下この条において同じ。)を通じて事業を行う場合において、当該国外事業所等が当該居住者から独立して事業を行う事業者であるとしたならば、当該国外事業所等が果たす機能、当該国外事業所等において使用する資産、当該国外事業所等と当該居住者の事業場等(当該居住者の事業に係る事業場その他これに準ずるものとして政令で定めるものであつて当該国外事業所等以外のものをいう。以下この条において同じ。)との間の内部取引その他の状況を勘案して、当該国外事業所等に帰せられるべき所得(当該国外事業所等の譲渡により生ずる所得を含み、第15号に該当するものを除く。)
必要経費は国外事業所等に帰属するものだけを控除します。
事業所得以外の所得、他の事業所等の事業と共通して要する費用(共通費用)は合理的に按分して控除します(所得税法施行令(以下「所令」といいます。)221条の3第6項)。
(所令221条の3第6項)
居住者のその年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入された金額のうちに法第37条第1項に規定する販売費、一般管理費その他の費用で国外事業所等帰属所得に係る所得を生ずべき業務とそれ以外の業務の双方に関連して生じたものの額(略)があるときは、当該共通費用の額は、これらの業務に係る収入金額、資産の価額、使用人の数その他の基準のうちこれらの業務の内容及び費用の性質に照らして合理的と認められる基準により国外事業所等帰属所得に係る所得の金額の計算上の必要経費として配分するものとする。
事業所等の間での内部取引(棚卸し資産の移送など)も独立した第三者との取引とみなすことになっています。
(所令221条の3第5項)
居住者の国外事業所等と事業場等との間で当該国外事業所等における資産の購入その他資産の取得に相当する内部取引がある場合には、その内部取引の時にその内部取引に係る資産を取得したものとして、第2項の規定により準じて計算することとされる居住者の各年分の所得の金額の計算に関する所得税に関する法令の規定を適用する。
これらの所得税法上の国外事業所等帰属所得の計算ルールは、OECD主導のBEPSプロジェクトの行動計画7を受けて大幅に改訂されており、2019年1月以降適用されている比較的新しいものです。
しかし、行動計画が念頭に置く事業形態は製造業、卸・小売業が中心であり、インターネットを利用したサービス業のように事業所等の所在地とサービスの提供地が異なる場合については今後の検討対象となっているため、そのような業種の国外事業所等帰属所得を実際に計算する際には所得税法だけでは判断しにくい場面が多くなると思われます。
例えば、1人で事業を行っている弁護士が国内外に複数の事業所を有している場合、各事業所等の機能の軽重をどう図るのかなどはっきりしません。
各国での弁護士登録のために便宜的な事業所等を置くのみで、インターネットを介して全てのサービスが日本から提供されている場合と、各国の事業所を巡回しながら現地でサービスを提供している場合では違ってもよさそうです。
法律に従って登録しなければ業務に従事できない弁護士業の場合は、登録場所になっている国外事業所等の果たす機能は重要という見方もできますが、登録のためだけに設置した事業所等が果たす機能は実質的には「準備的又は補助的な性格の活動」(所令1条の2第4項)を有するに過ぎず、事業全体に対する貢献度(帰属所得)は限りなくゼロという見方もありえます。
非居住者が個人事業者としてインターネットを使って日本国内の消費者・事業者にサービス(電子通信等利用役務提供)を提供する場合は、消費税の課税関係も生じます。
また、居住者である個人事業者がサービス提供を行う場所によって、売上・仕入れの課税区分(国内取引=課税・免税・非課税、国外取引=不課税・特定仕入)が異なってきます。
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個人事業者の多国籍化、国際化のペースに比べて所得税の課税関係の整理は遅れています。
しばらくは、事案ごとに慎重に検討しながら申告するしかないと思います。