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日本に住所がある個人は国籍に関係なく所得税法上の居住者になります(所得税法(以下「所法」といいます。)2条3号)。
その居住者のうち、日本の国籍を有しておらず、かつ、過去10年以内において国内に住所又は居所を有していた期間の合計が5年以下である個人を「非永住者」といいます(所法2条4号)。
ちなみに、この所得税法上の「非永住者」という課税上の地位は、出入国管理及び難民認定法上の永住許可の有無とは無関係です。
非永住者の場合、日本で課税される所得は以下の3つに分類されます(所法7条1項2号)。
非国外源泉所得は支払場所、送金の有無にかかわりなくすべてが発生した年に課税(即時課税)されるのに対し、国外源泉所得は日本で支払を受けるか、日本に送金されるまで課税を猶予されます(送金課税)。
一般的には日本国外で得た所得のことですが、厳密には所得税法が定める以下の17種類の所得をいいます(所法95条1項、4項)。
先述の17種類に該当しない所得は、たとえ国外で得たものであっても、所得税法上は非国外源泉所得になります。
かつての所得税法には「国内源泉所得」という定義があり、これに該当しないその他の所得を長らく「国外源泉所得」と消極的に定義していました。
しかし、この定義の仕方では日本で課税上不都合があるということが分かり、2017年の所得税法改正において国外源泉所得を積極的に定義するとともに「国内源泉所得」とは別に「国外源泉所得以外の所得」という定義を設けました。
いまでも税理士等の多くの実務家が便宜的に「国外源泉所得以外の所得」の意味で「国内源泉所得」という用語を使いますが、厳密には正しい用語の使い方でありません。現行法では「国内源泉所得」は「国外源泉所得以外の所得(非国外源泉所得)」に包摂される関係になっています。
一般的な考え方のものとでは、国外にある資産を譲渡すれば「国外源泉所得」になりそうです。
しかし、「国外にある資産の譲渡所得として政令で定めるもの」を国外源泉所得と定義する所得税法(95条1項3号)の下では一筋縄ではいきません。
この「政令で定めるもの」に該当しないものは「国外源泉所得」ではなく、「非国外源泉所得」になってしまうのです。
その一例が国外にある有価証券の譲渡です。
2017年改正前の所得税法では、国外にある有価証券の譲渡所得はすべて「国外源泉所得」として取り扱われていましたが、2017年4月以降は、国外にある有価証券のうち一定の要件を満たすもの(特定有価証券)の譲渡により生ずる所得だけが「国外源泉所得」に含まれる(所法7条1項2号)ことになっています。
その結果、国外源泉所得に該当しない譲渡所得は、日本に送金されなくても即時課税されるようになりました。これこそが2017年の国際課税分野の重要改正点でした。
次に掲げる有価証券をいいます(所得税法施行令(以下「所令」といいます。)17条1項、所得税基本通達(以下「所基通」といいます。)7-1)
(1) 譲渡の日の10年前の日以前に取得をしたもの
(2) 譲渡の日の10年前の日の翌日から当該譲渡の日までの期間に取得をしたもので、その者が非永住者でなかった期間に取得をしたもの
(3) 平成29年3月31日以前に取得をしたもの((1)又は(2)に該当するものを除く。)
実際に国外源泉所得に該当するのは、特定有価証券を国外において譲渡したことによる所得です(所令17条1項)。
国外において譲渡したといえるのは、以下の譲渡です(所令17条1項1~3号)。
したがって、国内市場における譲渡や、国内証券会社等を通じた譲渡は、特定有価証券の譲渡であっても国外源泉所得にはなりません。
日本に住み始めて日が浅い外国人にとって問題になりやすいのが「送金課税」です。
先述のとおり、非永住者の国外源泉所得は、日本で支払われるか送金されるまで課税が猶予されています。
しかし、送金されるお金に色はありませんから、これまでの貯蓄の一部を送金しても、送金した年にたまたま国外源泉所得があれば「送金課税」の対象になりえます。
日本に来て生活必需品を買うために一度に多額の送金をすると、思いがけず課税を受けることもありえますから、いつ、どれだけの資金を日本に持ち込むか事前に検討すべきなのですが、そこまで考えて日本に移住してくる外国人の方は稀です。
国内の預金口座への送金はもちろん、通貨の持込み又は小切手、為替手形、信用状その他の支払手段による通常の送金のほか、次に掲げるような行為が含まれます(所基通7-4)。
非永住者の所得税の課税方法は以下の表のとおりです。
国内払い | 国外払い | |
非国外源泉所得 | 即時課税 | 即時課税① |
国外源泉所得 | 即時課税 | 送金課税② |
国内払いはすべて即時課税です。
国外払いのうち非国外源泉所得は即時課税です(①)。
国外払いのうち国外源泉所得は送金時に課税です(②)。
送金額はまずその年の所得①(国外払いの非国外源泉所得)に充当します。
その余りがあれば所得②(国外払いの国外源泉所得)に充当します。(所令17条4項)
具体例1:送金額 600
国外払い | |
非国外源泉所得 | 250① |
国外源泉所得 | 300② |
課税される送金額:600 – 250 = 350 > 300 → 300
具体例2:送金額 500
国外払い | |
非国外源泉所得 | 250① |
国外源泉所得 | 300② |
課税される送金額:500 – 250 = 250 < 300 → 250
具体例3:送金額 200
国外払い | |
非国外源泉所得 | 250① |
国外源泉所得 | 300② |
課税される送金額:200 – 250 = △50 < 300 → 0
年の中途で非永住者になったとき、または年の中途で非永住者に該当しなくなったときは、その年のうち非永住者であつた期間内に生じた所得を国外源泉所得と国内源泉所得に区分し、その期間内に国外から送金があつた金額について上述の充当計算をします。
無用な課税を避けるためにも所得①と②の区別が必要です。区別ができなければすべて②とみなされてしまいます。
また、その年に所得②がなければいくら送金しても送金課税はありません。
具体例4:送金額 600
国外払い | |
非国外源泉所得 | 250① |
国外源泉所得 | 0② |
課税される送金額:600 – 250 = 350 > 0 → 0
近い将来に国外源泉所得がゼロかマイナスになると見込まれるときは、その年にまとめて送金すると節税になります。
国外源泉所得に外国で所得税が課税された上に日本で送金課税を受けると、同じ所得に対して二か国で課税される状態になります。
このような二重課税の状態を排除・緩和する措置として外国税額控除があります。
日本の居住者(非永住者を含む)は日本の所得税の確定申告で外国税額控除を適用することになります。
外国税額控除を使ってどれだけ二重課税を解消できるかは、それぞれの年に日本と外国で納税した所得税の額、非国外源泉所得、国外源泉所得の金額によって変わってきますが、外国税額控除によって二重課税を排除できそうなら、送金のタイミング、金額を検討する上で選択肢が広がります。
送金課税を検討する際には、外国税額控除も考慮するとよいでしょう。
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海外に移住する際には、治安や物価水準だけでなく税制についても事前に調べておいた方がいいですね。