Takashi Yamaguchi, English Speaking Japanese Tax Accountant

出入国と所得税の課税関係

以前ブログ「『居住者・非居住者』と『内国法人・外国法人』」で居住者と非居住者とで所得税が課税される所得の範囲に違いがあることを簡単にお話ししました。
今回は、年の途中で居住者が非居住者になったり、非居住者が居住者になった場合の所得税の課税関係についてすこし詳しめに解説します。

居住者が非居住者になった場合(国外転出)

日本に住所・居所を持たない個人は所得税法上「非居住者」と呼ばれます。
「居所」とは簡単にいうと生活の拠点のことです。
もともと日本に住所・居所を有していた個人、すなわち「居住者」が、海外への転勤・移住によって年の途中で日本国内の住所・居所をなくすと、その時点で課税上のステータスが居住者から非居住者に変わります。
そんな場合、所得税の課税関係はどうなるのでしょう?

国籍は関係なし

日本国籍を有している日本国民であっても、国内における住所・居所がなくなれば非居住者になります(所得税法(以下「所法」)2条5号)。
非居住者になった後の所得税の課税関係については国籍による違いはありません。

居住者期間と非居住者期間にわけて考える

年の途中で居住者が非居住者になった場合は、居住者であった期間、非居住者になった後の期間を区別し、それぞれの期間内に生じた所得について居住者または非居住者として所得税が課税されます(所法8条)。
したがって、年の途中で課税される所得の範囲、さらには課税方法(総合課税か分離課税か)や税率が変わることもあります。
たとえば、外国法人の従業員として国外で支払われている給与のうち、国内勤務部分に相当する部分のうち、居住者であった期間内に生じたものは総合課税(累進税率)の対象ですが、非居住者になった後の期間内に生じたものは申告分離課税(20.42%)の対象になります。

納税管理人の有無で違ってくる申告納付期限

居住者が年の途中で「出国」する場合、その年の1月1日から出国の時までの期間内に生じた所得について居住者として所得税の確定申告書を提出し、納税も済まさなければなりません(所法127条)。
「出国」した後その年の12月31日までに非居住者として確定申告が必要な所得が生じれば、翌年3月15日までにその所得について申告・納税が必要です(所法166条による120条準用)。

ここにいう「出国」とは一般的用語としての出国を指すものではなく、「納税管理人」を選定しないまま国外に転出する(非居住者になる)という所得税法上固有の状態を指します(所法2条42号)。
「納税管理人」とは納税者本人に代わって日本における申告・納税をする代理人のことです。
国外転出前に「納税管理人」を選定し、そのことを税務署に届け出ておけば、居住者期間・非居住者期間それぞれの期間内に生じた所得をまとめて原則通り翌年3月15日までに確定申告すればよいことになっています(所法166条による120条準用、所得税基本通達165-1)。
国税だけでなく地方税についても同じ制度があります(届出は別個に必要です)。
税務署に届け出る場合は以下の書式を使います。地方税については各自治体が定める書式を使います。

tax proxy

非居住者になった後も申告義務を負うことも

非居住者になっても、日本国内で一定の所得が生じる場合は日本で所得税の申告が必要です。
例えば、非居住者になった年の翌年に先に述べた日本国内での勤務にかかる所得(給与所得)、日本国内にある不動産を貸し付けたことによる所得(不動産所得)や処分したことによる所得(譲渡所得)などがあれば、その年について所得税の確定申告と納税が必要です。
こうした手続を滞りなく進めるためにも納税管理人を置いておいた方がよいでしょう。

非居住者が居住者になった場合(入国)

日本に住所・居所がなかった個人、すなわち「非居住者」が年の途中で日本国内に住所・居所を有するようになる場合は、その時点を境に課税上のステータスが非居住者から居住者に変わります。

国籍が影響する課税上のステータス

出国の場合と違い、日本国籍の有無によって居住者になった後の課税関係に違いが生じます。

  • 日本国籍あり:日本に住所・居所をもった時点で即「永住者」扱い
  • 日本国籍なし:まず「非永住者」として取り扱われ、一定の要件を満たした時点で「永住者」になる。

「非永住者」とは、居住者のうち日本国籍を有しておらず、かつ、過去10年以内において国内に住所・居所を有していた期間の合計が5年以下である個人のことです(所法2条4号)。
「永住者」は正式には法律上「非永住者以外の居住者」と定義されています(所法8条)。
したがって、日本国籍を有する居住者は非永住者には該当する余地はなく、いきなり「非永住者以外の居住者」、すなわち永住者として取り扱われます。

日本国籍を有しない居住者については、日本で住所・居所を有していた期間によって非永住者か永住者かに分かれますので、その判定のために以下の「居住形態等に関する確認書」を作成し、所得税の確定申告書に添付することになっています(非永住者であった期間が全くない年については添付不要です。所法120条7項)。

Confirmation of Resident Status

課税上のステータスの区別は重要

非居住者と居住者とでは日本で課税される所得の種類・範囲が大きく異なります。
また、居住者になった後でも、非永住者と永住者とでは課税される所得の範囲が違いますから、非居住者・居住者(非永住者・永住者)の区別は重要です。
それぞれの期間ごとに生じた所得を区分し、それぞれの課税関係考えることになります(所法102条、8条)。

最初の5年間の課税関係に注意

非永住者である間は、国外源泉所得(日本国外で生じた所得)は日本で課税されないのが原則ですが、国外源泉所得がある年に国内へ資金送金すると、その送金額の範囲内で国外源泉所得も課税されてしまいます。
また、国外源泉所得であっても国内で支払を受けるものも課税されます。

国外源泉所得がないことが明らかな年、あるいは国内送金等がない年はあまり問題になりませんが、国外で何らかの所得を得ている年に国内で支払や送金を受けると、日本で課税される国外源泉所得を計算して申告しなければなりませんので、その分手間が増えます。
外国税額控除がうまく機能しない場合は税負担も増えます。

日本で課税される国外源泉所得は日本の居住者になった日以降に発生したものに限られます(所得税法施行令17条4項6号)から、本来は日本の居住者になる前に得た所得を日本に送金しても課税されることはありません。
しかし、送金されるお金がいつの年の所得に対応するのか区別できません(お金に色はない)ので、その送金の年に他の国外源泉所得が発生していれば、たとえ前年以前の所得を送金するつもりであっても、送金額の範囲内でその年に発生した国外源泉所得が課税されてしまいますのでご注意ください。

5年経過すると国籍による違いはなくなる

直近10年間における居住期間が通算5年を超えると課税上のステータスが非永住者から永住者(非永住者以外の居住者)に変わります。
年の途中で5年目を迎えるとその日から永住者としての課税が始まります。
永住者になると、国内送金・国内払いの有無にかかわらず、国外源泉所得を含めたすべての所得(全世界所得)を申告する必要があります。
年の途中で非永住者から永住者になった場合、非永住者であった期間と永住者になった期間を区別してそれぞれの期間の課税所得を計算します。(所法8条)。

申告もれに注意

日本を離れた後に日本国内で生じた所得、あるいは日本にいる間に外国で生じた所得を申告しなければならないのに、これを怠ると加算税延滞税というペナルティーが課されます。
最近では日本の税務当局は日本国内だけでなく海外の銀行口座の取引データも入手しています。
申告内容と銀行口座の資金移動を比べて申告漏れをチェックする体制も整いつつあるようですから、申告しなくても分からないだろうと思うのは危険です。

また、永住者になると外国籍の方でも5千万円を超える国外財産を所有する場合は以下の「国外財産調書合計表」と「国外財産調書」の提出が必要です。
これを怠る場合もいろいろペナルティーが課されますので、正直に調書を作成して提出したほうが身のためです。

国外財産調書

 

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短期間に国内外に転居を繰り返している方、複数国に生活の拠点や事業拠点を有している方の課税関係はより複雑になります。
そのような状態が見込まれる場合、事後的対応はもちろんですが、事前に課税関係を検討しておくことも大事です。
国際的な二重課税を避けるには、租税条約や外国税額控除の適用まで考慮したプランニングが肝要です。

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