海外の銀行口座で受け取った預金利息があれば原則的に「利子所得」について確定申告が必要ですが、「預金利息=確定申告不要」と思いこんでいる方が多いみたいです。
最近、海外に預金口座をお持ちの方(個人)に対する税務調査が増えています。
みなさんは大丈夫ですか?
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「預金利息=確定申告不要」説の根拠は「源泉分離課税」制度に対する誤解のようです。
確かに、源泉分離課税が適用される預金利息については、他の所得と区分して20.315%の源泉徴収(うち復興特別所得税0.315%、住民税利子割5%)だけで課税関係を完結させる仕組みになっており、申告は不要です(租税特別措置法3条)。
しかし、源泉分離課税の対象となるのは、居住者または恒久的施設を有する非居住者が「国内において支払を受けるべき」利息に限られています。
したがって、国外の銀行(邦銀の海外支店を含む)に預け入れた預金について国外で支払われる利息は対象外です。
逆に、外国銀行の日本支店に預け入れた預金の利息は「国内において」支払われるので対象になります。
申告が必要かどうかは、預入先の銀行が邦銀か外銀か、あるいは預け入れ通貨が日本円か外貨かではなく、預入先となる営業所等が国内にあるかどうかで判断することになります。
国外に預け入れた預金の利息は原則的に「利子所得」として確定申告する必要があります。
ただし、給与所得者、年金受給者については特例が設けられており、一定の要件を満たす場合は、申告しなくてもよいことになっています(所得税法121条)。
共通要件:
まず、次の1.と2.の両方に該当すること
その上で、以下の場合ごとの要件を満たすと確定申告しなくて済みます。
一か所から給与の支払いを受けている場合:
その年の「給与所得・退職所得以外の所得金額」が20万円以下であること
「給与所得・退職所得以外の所得金額」とは:
利子所得の金額、配当所得の金額、不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額、譲渡所得の金額、一時所得の金額及び雑所得の金額の合計額
二か所以上から給与の支払いを受けている場合:
次の1.または2.のいずれかに該当すること
次の1.から3.のすべてに該当すること
公的年金等に係る雑所得以外の所得金額とは:
利子所得の金額、配当所得の金額、不動産所得の金額、事業所得の金額、給与所得の金額、山林所得の金額、譲渡所得の金額、一時所得の金額及び公的年金等に係る雑所得以外の雑所得の金額の合計額
上記の給与所得者、年金受給者の特例のいずれにも該当しない場合は、原則どおり国外預金利息について確定申告が必要です。
あなたが「非永住者」でない限り、国外預金の利息の金額が年20万円を超えていれば申告は必須です。素直に申告しましょう。
非永住者の方は送金課税に注意してください。国外預金を国内に送金すると送金額によっては確定申告が必要になります。
さて、申告にあたってみなさんがよく気にされるのが以下の3点です。
外貨建ての預金利息は支払日の外国為替の売買相場により円換算するものとされており(所得税法57の3)、具体的には、同日における対顧客直物電信売相場(いわゆる「電信売相場」または「TTS」)と対顧客直物電信買相場(「電信買相場」または「TTB」)の仲値(「電信売買相場の仲値」または「TTM」)を用いて換算するのが原則です(所得税基本通達57の3-2)。
確定申告する利子所得は、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、譲渡所得(分離課税の適用があるもの以外)及び雑所得と一緒に課税されます(総合課税)。
他の所得と合計した所得金額に応じて5%~45%の累進税率で所得税が課税され、その所得税額に対して2.1%の復興特別所得税が課されます。さらに所得金額に対して10%の住民税が課されます。
国外での利息の支払いから現地の所得税が源泉徴収されることがあります。
現地で源泉徴収された外国所得税は日本の確定申告において「外国税額控除」の対象になります。
外国税額控除は、納付済みの外国の所得税(外国税)を日本で納めるべき所得税額から控除することで日本と現地での所得税の二重課税を解消・緩和する制度です。
ただし、日本で控除の対象にできる外国税の金額は、租税条約によって影響を受けることがあるので、預金先の営業所等の所在国と日本の間に租税条約があるどうか確認が必要です。
租税条約に利子所得について所得税の免除・軽減に関する定めがあるにもかかわらず、その定めを超えて源泉徴収された外国税は日本で控除の対象になりませんので確定申告にあたって注意が必要です。
もし、条約の規定以上の税率で源泉徴収されているときは、事後的にでも源泉税の減免を受けられないかを預金先に照会してください。
事後的な減免が申請可能であれば、そのための手続きをとってください。
預金を含め国外に有する財産の総額が年末時点で5千万円を超えていると「国外財産調書」とその合計表を税務署に提出しなければなりません。
提出期限は確定申告書と同じく翌年3月15日です。
かつては、日本の居住者が国外に持っている預金口座を日本の税務当局が特定することは極めて困難でした。
しかし、各国の税務当局との間で金融取引に関する情報交換(AEoI)が本格化した2018年以降は、どこの誰がどの国にどれだけの預金を持っているかを税務当局はかなりの確証をもって把握できているようです。
今や、国外預金利息の申告もれや国外財産調書の未提出は税務調査官の格好のターゲットになっていると思ったほうがよいでしょう。
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「年末の国外財産総額が5千万円を超えるまでは国外預金の利息を申告しなくてもよい」という噂もあるようですが、それは違います。
国外財産調書の提出義務と申告義務の要件は別物です。